数多く存在する細菌には、いくつかの分類があります。
グラム染色はその分類法の一つで、主に菌の特性を知り治療法を決めるために行われます。
グラム染色では、菌をグラム陽性菌とグラム陰性菌に分けますが、この記事では両者の違いについて説明します。
グラム染色とは?
数多く存在する細菌の分類も数多くあり、
●細菌の種類・株による分類
●PCR
●ゲノム配列
●質量分析
●形状(桿菌・球菌など)
●高酸素環境を好むか、低酸素環境を好むか
などがあります。
グラム染色技術は1884年にデンマークの細菌学者ハンス・クリスチャン・グラムによって開発されました。
グラム染色の方法は、
塩基性の紫色色素液で染色
↓
ヨウ素で色素液を処理
↓
アルコールで脱色
することで、グラム陽性菌は赤やピンクに、グラム陰性菌は紫や青に染まります。
グラム染色では、細胞壁の構造の違いで菌を分類することができます。
グラム陽性菌とグラム陰性菌の違い
病原性の有無に関係なく、グラム染色では菌の細胞壁の構造により、グラム陽性菌とグラム陰性菌に分けられます。
構造の違い
グラム陽性菌は、外側をペプチドグリカンと呼ばれる糖タンパク質でできた厚い細胞壁で覆われ、内側に細胞膜があります。
グラム染色により、細胞壁が紫、または青に染まります。
グラム陰性菌は、細胞壁が薄いのですが、細胞膜に挟まれる構造をしており、外側に外膜があります。この外膜は浸透しにくい性質で、細胞壁を保護しています。
グラム染色により、細胞壁が赤、またはピンクに染まります。
細胞壁が外側にあるグラム陽性菌と、細胞壁が外膜の内側にあるグラム陰性菌。
病原性が強いのはどちらかというとグラム陰性菌で、細胞壁を破壊する抗生物質に対しても多少耐性がある傾向があります。
グラム陰性菌のリポ多糖
グラム陰性菌の外膜は、リポ多糖(LPS・Lipopolysaccharide)という糖脂質から構成されています。
リポ多糖は、内毒素(エンドトキシン)で、人の体の免疫にとっては攻撃の対象(抗原)です。
内毒素とは、積極的には放出されない、ただ貯めてある毒素のことです。
人の古い皮膚が剥がれ再生するように、グラム陰性菌のリポ多糖も古いものから剥がれ落ち再生しています。
剥がれ落ちたリポ多糖の内毒素はそこまで問題はありませんが、グラム陰性菌が死ぬ時に放出されるリポ多糖、つまり内毒素は過剰になった場合、エンドトキシンショックや多臓器不全を引き起こすこともあります。
リポ多糖は比較的大きい分子で、通常は腸壁を通り抜けることはできません。
しかし、カンジダ症やリーキーガット症候群で腸の透過性が上がっている状態では、隙間を通って血流に混入します。
血流に異物が入ってこないように監視している免疫系は、リポ多糖が入ってきたことでサイトカインという物質を送り全身に対し異物が混入したことを伝えます。
これにより体内に炎症が生じます。
糖尿病やうつ病患者は、リポ多糖の血中濃度が高い傾向にあります。
LPS(リポ多糖)はサプリメントにもなっていますが、なぜ「毒素」が健康に有益なのでしょう?
免疫力を高める用途のサプリメントでLPS配合のものがありますが、LPSは自然界で土や作物の表面にも存在し、経口摂取や経皮摂取の場合は毒性はなく、むしろ免疫を強化する作用があります。
腸内のグラム陰性菌が一気に死ぬことにより過剰に放出されるLPSが血流に混入する場合は体には害になりますが、自然界に存在するLPSは大丈夫ということです。
”LPSは、内毒素(エンドトキシン)。
リポテイコ酸は、LPSに比べて研究が進んでおらず、構造や生物活性などがよくわかっていない。” https://t.co/FuFlwTEJPj— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) June 2, 2020
グラム陽性菌の種類
多くのグラム陽性菌は病原体です。
●球菌(ブドウ球菌・連鎖球菌)
●桿菌(胞子形成・非胞子形成)
に分けられます。
100を超える病原性グラム陽性菌がありますが、注目すべき種は次のとおりです。
ブドウ球菌(Staphylococcus)
ブドウ球菌はブドウのように集まった状態で成長し、通常、皮膚や粘膜に存在します。
ブドウ球菌が体内に侵入すると、深刻な感染症を引き起こす可能性があります。
ほとんどの場合、以下の種が原因です。
他の病原性ブドウ球菌はあまり一般的ではなく、まれに疾患を引き起こすこともあります。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)
黄色ブドウ球菌は最も病原性の高いブドウ球菌です。
以下の症状を引き起こす原因になります。
●蜂巣炎や毛包炎などの皮膚感染症
●敗血症性関節炎
●膿瘍
●心内膜炎
●細菌性肺炎
●食中毒
●トキシックショック症候群
●やけど皮膚症候群
●MRSA
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)
●尿道カテーテルなどの医療機器の感染
●菌血症
●縦隔炎
●手術部位感染
●角膜炎
●眼内炎(眼内感染症)
腐性ブドウ球菌(Staphylococcus saprophyticus)
この菌は通常、生殖管と会陰に見られます。
●合併症のない尿路感染症(←最も一般的)
●尿道炎
●前立腺炎
●急性腎盂腎炎
●精巣上体炎
連鎖球菌(Streptococcus)
連鎖球菌も一般的な病原菌です。
連鎖球菌は文字通り連鎖して成長します。
細胞分裂しても完全には分離しません。
ブドウ球菌と同様に、連鎖球菌は通常体内、皮膚、口、腸管、生殖管に見られます。
連鎖球菌は以下のように分類されます。
●肺炎連鎖球菌(S. pneumoniae)
●化膿連鎖球菌(S. pyogenes)【グループA】
●B型連鎖球菌(S. agalactiae)【グループB】
●腸球菌(Enterococci)【グループD】
●ビリダンス連鎖球菌(S. viridans)
肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)
肺炎連鎖球菌は、一般的な感染症の原因菌です。
●結膜炎
●副鼻腔感染症
●髄膜炎
化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)
化膿連鎖球菌はA群に属する連鎖球菌です。
●連鎖球菌性咽頭炎
●蜂巣炎
●咽頭炎
●とびひ
●猩紅熱
●リウマチ熱
●壊死性筋膜炎
●糸球体腎炎
B群連鎖球菌(Streptococcus. agalactiae)
B群連鎖球菌は通常、新生児に感染症を引き起こします。
●敗血症
●肺炎
●髄膜炎
●関節症
腸球菌(Enterococcus)
腸球菌は主に結腸に見られます。
●胆道感染症
●尿路感染症
ビリダンス連鎖球菌(Streptococcus. viridans)
ビリダンス連鎖球菌は、口腔内常在菌で病原性は低いのですが、ときに無菌部位に侵入し重症な感染症を引き起こします。
桿菌(Bacillus)
グラム陽性菌が桿菌は、棒状の形をしています。
これらの細菌のほとんどは通常皮膚に見られますが、一部は深刻な病状を引き起こす可能性があります。
グラム陽性桿菌は、胞子を作る能力に基づいてさらに分類されます。
胞子形成
●バチルス属(Bacillus)
●クロストリジウム属(Clostridia)
これらの菌は胞子を形成し、高熱のような過酷な条件で生き残るのを助けます。
これらの桿菌は、酸素の必要性に基づいて細分化されています。
バチルス属細菌は生き残るために酸素を必要とし(好気性)、クロストリジウム属細菌は必要としません(嫌気性)。
非胞子形成
●リステリア属(Listeria)
●コリネバクテリウム属(Corynebacterium)
は胞子を作りません。
リステリア菌は嫌気性ですが、コリネバクテリウムは好気性です。
バチルス属(Bacillus)
芽胞菌として、毒素を放出する胞子を作る桿菌です。
ほとんどの桿菌は人間に病原性はありませんが、次の2つは深刻な病状を引き起こす可能性があります。
炭疽菌(Bacillus anthracis)
炭疽菌の胞子は毒素を産生し、深刻な病気を引き起こします。
人間は、吸入したり、感染した動物と接触したりすることで炭疽症を発症することがあります。
炭疽菌は広がり方によって、さまざまな症状を引き起こす可能性があります。
●中心が黒い痛みとかゆみを伴う隆起
●吐き気
●嘔吐
●腹痛
●咳
●高熱
セレウス菌(Bacillus cereus)
セレウス菌は、土壌や一部の食品に見られる胞子形成菌です。
調理時の加熱不足、または再加熱された米を食べることにより発症するケースが多くなります。
●下痢
●吐き気
●創感染
●呼吸器感染症
●眼内炎
クロストリジウム属(Clostridia)
約30種のクロストリジウムが人間に病気を引き起こします。
バチルスと同様、これらの細菌は毒素を形成し深刻な状態を引き起こします。
クロストリジウムは通常、食中毒に関与していますが、最も懸念される細菌は以下の通りです。
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)
ボツリヌス菌の胞子はボツリヌス毒素を産生します。
これは人間にとって最も危険な毒素です。
以下のボツリヌス中毒症につながります。
●食中毒ボツリヌス中毒(←最も一般的)
●幼児ボツリヌス中毒
●創傷ボツリヌス中毒
●吸入ボツリヌス中毒
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)
ウェルシュ菌は通常、肉の生産と加工に汚染される傾向があります。
●食中毒
●下痢
●腹部の痙攣
クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)
クロストリジウム・ディフィシルは、通常、入院中の高齢者、特に抗生物質服用後に発生します。
●大腸炎
●腹部の痙攣
●重度の下痢
破傷風菌(Clostridium tetani)
破傷風菌の胞子は、神経毒性物質である破傷風毒素を生成します。
胞子は土壌、灰、さびた道具に付着している傾向があります。
毒素が傷口などから感染を引き起こす場合、それは破傷風と呼ばれます。
これは深刻な緊急事態です。
●痙攣
●呼吸困難
●脳炎
リステリア菌(Listeria monocytogenes)
リステリア菌は、健康な人では、軽い食中毒の症状で終わります。
しかし免疫系が弱っている人では、生命を脅かす状態を引き起こす可能性があります。
●髄膜炎
●敗血症
●リステリア症
コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)
病気に関連するコリネバクテリウム属の細菌が重症な症状を引き起こすことはめったになく、通常、免疫システムが損なわれている人々に影響を与えます。
コリネバクテリウム・ジフテリアは、このグループの主要な病原菌です。
●ジフテリア
●咽頭炎
●呼吸器感染症
●敗血症性関節炎
●皮膚感染症
●骨髄炎
●心内膜炎
グラム陽性感染症の治療
グラム陽性菌によって引き起こされる病気を治療する場合、以下のポイントに注目します。
●菌の種類
●抗菌剤耐性
●細菌が毒素を形成するかどうか
一般的な治療法は次のとおりです。
ペニシリン
ペニシリンは、さまざまな感染症に使用される一般的な抗生物質です。
菌の細胞壁であるペプチドグリカン層を破壊することによって働きます。
この抗生物質は主に連鎖球菌感染症に使用されます。
●連鎖球菌性咽頭炎
●副鼻腔感染症
●尿路感染症
●蜂巣炎
グリコペプチド
グリコペプチド抗生物質は、薬剤耐性菌によって引き起こされる深刻な感染症の治療によく使用されます。
ペニシリンと同様、菌の細胞壁を破壊することによって機能します。
●多剤耐性肺炎
●MRSA
●大腸炎
エリスロマイシン
エリスロマイシンは、マクロライドとして知られている抗生物質のクラスにあります。
これには、よく知られているアジスロマイシンとクラリスロマイシンも含まれます。
菌の成長を止め、グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方に対して作用する抗生物質です。
多くの場合、エリスロマイシンはペニシリンにアレルギーのある人に処方されます。
●細菌性肺炎
●結膜炎
●連鎖球菌性咽頭炎
●ブドウ球菌感染症
●輸液療法
一部の例では、治療には輸液療法が含まれる場合があります。
体の水分レベルを補給し、脱水を防ぐのに役立ちます。
一般的に、毒素によって引き起こされる状態を治療するには、水分管理が必要です。
抗毒素
炭疽菌やボツリヌス中毒などの毒素関連疾患の治療には、抗毒素が使用されます。
この薬は、体内の毒素を標的として除去することで機能します。
抗毒素は、他の治療と併用して使用されます。
グラム陰性菌の種類
グラム陰性菌は外膜を持つ構造から、特定の抗生物質に耐性を持つ特徴があります。
遺伝子を変異させ耐性をつける特性もあるため、抗生物質が効かなくなる原因になります。
グラム陰性球菌(Gram negative coccus)
球菌は、丸い形の菌です。
ナイセリア属(Neisseria species)
12種あるナイセリア属のうち、病原性があるのは以下の2種です。
●髄膜炎菌(N.meningitidis)
●淋菌(N. gonorrhoeae)
引き起こす症状は、
●髄膜炎
●髄膜脳炎
●膿瘍
●膿胸
●血栓性静脈炎
●淋病
ベイロネラ属(Veillonella species)
哺乳類の腸と口腔粘膜に存在し、乳酸発酵能力を持ちます。
●骨髄炎
●心内膜炎
に関与しているとされています。
グラム陰性双球菌(Gram negative diplococcus)
双球菌は、2個ずつ対をなす菌です。
モラクセラ属(Moraxella catarrhalis)
モラクセラ・カタラーリスは、乳児や小児の中耳炎の原因になる菌です。
その他の症状では、
●副鼻腔炎
●気管支肺炎などの急性限局性感染症
●心内膜炎
●髄膜炎
特にアルコール依存症、または慢性閉塞性肺疾患の患者で肺炎を引き起こす可能性、
高齢患者の慢性閉塞性肺疾患(COPD)、および慢性気管支炎の悪化も引き起こします。
グラム陰性球桿菌(Gram Negative Coccobacilli)
球菌と桿菌の中間の形状を持つ細菌です。
見分けがつきにくく、間違われることも多いようです。
ヘモフィルス属(Haemophilus species)
時として形態が大きく変化するグラム陰性多形性桿菌。
●髄膜炎
●喉頭蓋炎
●菌血症を伴う蜂巣炎
●敗血症性関節炎
●肺炎
●中耳炎
●喉頭蓋炎
に関連しています。
アシネトバクター属(Acinetobacter species)
アシネトバクター感染症の発生は、通常、集中治療室(ICU)や病気の患者を収容する医療施設で発生します。
土壌など湿潤環境を好み、自然環境中に広く分布する。健康な人の皮膚にも存在することがあり、動物の排泄物からも分離されることがあります。
感染部位は呼吸器系に多く見られ、気管切開創に定着しやすいが、全ての臓器で化膿性感染症を引き起こす可能性があります。
患者にコロニー形成する場合もあります。
キンゲラ属(Kingella species)
気道などに生息しています。
特に幼児に関節炎や菌血症、心内膜炎などに関連しています。
フランシセラ属(Francisella species)
野兎病(やとびょう)の病原体です。
野兎病とは、野兎病菌(Francisella tularensis)が原因の感染症で、人、野兎などが感染します。
症状は、
●波状熱
●頭痛
●悪寒
●吐き気
●嘔吐
●衰弱
●化膿
●潰瘍
毒性と感染力が強い、危険な病原菌です。
グラム陰性らせん菌(Gram Negative Spiral Bacteria)
らせん状の形態のグラム陰性菌です。
スピリルム(Spirillum)
鞭毛(べん毛)を持っているらせん菌です。
スピリウムの例は、
●カンピロバクター
●ヘリコバクター
など。
カンピロバクター症という食中毒の原因になったり、ヘリコバクターピロリ菌は消化性潰瘍の原因になります。
スピロヘータ(Spirochaete)
菌体の一番外側にエンベロープと呼ばれる被膜構造を持ち、それが細胞体と鞭毛を覆っています。
細胞壁が薄くて比較的柔軟であり、鞭毛の働きによって菌体をくねらせたりコルク抜きのように回転しながら活発に運動します。
●梅毒
●回帰熱
●ライム病
などに関連しています。
グラム陰性菌感染症の治療
グラム陰性菌は、細胞壁(ペプチドグリカン)が保護されているため、細胞壁を破壊する作用がある抗生物質(ペニシリンやリゾチームなど)は効果がありません。
EDTAを伴うリゾチーム、抗生物質のアンピシリンなどは病原性を持つグラム陰性菌の外膜に効果を示すように作られました。
その他有効な抗生物質
●クロラムフェニコール
●ストレプトマイシン
●ナリジクス酸
”菌が複製される際に放出する毒素は宿主に対しての毒素以外にも、他の菌の活性を妨害する目的の毒素もあり、攻撃目的なものもあれば防御目的のものもある。”https://t.co/lxyXQUYmk4 https://t.co/XaATeF6NxW
— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) June 2, 2020
まとめ
グラム染色は、細菌の構造を知り治療方針を決めるために行います。
グラム陽性菌は、紫、または青に染まる菌で、外側をペプチドグリカンと呼ばれる糖タンパク質でできた厚い細胞壁で覆われ、内側に細胞膜があります。
グラム陰性菌は、赤、またはピンクに染まる菌で、細胞壁が薄いのですが、細胞膜に挟まれる構造をしており、外側に外膜があります。
この外膜は浸透しにくい性質で、細胞壁を保護しています。
グラム陰性菌の外膜に存在するは、リポ多糖は、内毒素(エンドトキシン)で、人の体の免疫にとっては攻撃の対象(抗原)です。
血流に混入すると毒素が炎症を引き起こしますが、経口摂取・経皮摂取の場合、免疫を高める作用があります。
カビ類はグラム陽性菌に属することが多く、カンジダ菌もグラム陽性菌です。
乳酸菌やビフィズス菌も、グラム陽性菌です。