誰もがする排便。
糞便・大便・うんこ、を研究する科学者や医師は、腸内のさまざまな細菌群の副産物があらゆるケースの健康に影響を与えることを発見しました。
糞便に注意を払うと、これらの重要な細菌の状態や全体的な健康状態を知ることができます。
糞便について、あなたがまだ知らないかもしれない驚くべき事実を↑こちらの2つのサイトと、『あなたの体は9割が細菌微生物の生態系が崩れはじめた』(アランナ・コリン著)という本を参考にまとめました。
1、糞便はほとんどが菌で古い食べ物ではない
糞便は食べたものが消化され、その結果の残り物が出てきていると思いがちですが、そうではありません。
糞便の水分を除いた50〜80%は、実際には腸内に住んでいて食べ物が通過するときに排出された細菌です。
しかも糞便の中の細菌の多くは生きています。(死んだ細菌の多くは、人の消化器官が消化できなかったものを分解し、その後死んでいきます。)
口から入った食物のほとんどは消化管を通過中にヒトの酵素と微生物によって消化吸収され、反対側から出てくるときにはごくわずかしか残っていない。したがって、糞便の中身は食物の残渣というよりほとんどが細菌だ。生きている細菌もあれば死んでいる細菌もある。糞便の重量の75%は細菌で、食物繊維のカスは17%だ。
あなたの腸は常時、肝臓と同じ重量に相当する1.5kgの細菌を抱えている。細菌の個体の寿命は数日か数週間だ。糞便から見つかる4千種の細菌が語ってくれる人体のついての情報は、ほかの場所から得られる情報すべてを合わせたものよりも多い。糞便に見つかる細菌は私たちの(ホモサピエンスとしての、社会集団としての、そしてあなた個人の)健康状態と食生活の指標となる。糞便中に圧倒的に多い細菌のグループはバクテロイデス属だが、あなたの腸内細菌はあなたが食べるものを食べているので、腸内細菌の組成比は人それぞれで異なる。あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン著 より引用
2、死んだ赤血球と胆汁が大便を茶色くする
糞便の茶色の元は「ステルコビリン」という物質から来ています。
ステルコビリンは、赤血球中のヘモグロビンがヘムに分解されてできる代謝物です。
鉄原子とポルフィリンから成る分子。ヘモグロビンは、ヘムとグロビンからできている。
細菌が胆汁の色素であるビリルビンに作用するため、糞便は通常、茶色になります。
これは、死んだ赤血球の最終結果である胆汁の色素です。
糞便が空気中に触れると茶色が濃くなる場合がありますが、これは糞便中のステルコビリノーゲンが空気中の酸素に酸化されて茶色のステルコビリンに変化するためであると考えられます。
理想的な糞便の色は、チョコレートのような茶色です。
黒または濃い赤の糞便は、上部消化管の出血の兆候。(ビーツ、イカ墨を食べた場合も)
緑の糞便も感染の兆候である可能性。
青い糞便、それはおそらく青い着色料のためです。
ちなみに糞便の匂いは単なるガスです。
主に硫化水素など硫黄を含むガスであり、食べ物の残りカスを腸内細菌が分解するときに発生します。
3、男と女の排便状況は微妙に異なる
男性と女性では消化器官の構造が異なります。
女性の骨盤は男性よりも広く、子宮や卵巣など男性にない臓器を持っています。
その結果、女性の結腸は男性のものよりも少し長く(平均して10cm)、さらに垂れ下がっています。
男性は女性より腹壁が硬く、食物を消化管に押し込むのに効率よくできています。
女性の場合、食物が消化器官を通過するのに時間がかかるため、膨満感、便秘やガスが発生しやすくなります。
4、理想的な糞便は丸太状の1本糞で水に沈む
糞便のほとんどが細菌で構成されていることからわかるように、健康的な大便は腸内細菌と深く関係しています。
理想的な糞便は人差し指と親指で円を作った時の太さで、1本につながった状態です。
ちぎれている糞便、小片がくっついている状態の糞便は、腸内細菌に食物繊維が足りていないサインです。
理想的な排便の頻度は、「毎日」という専門家もいれば、「3日に1度でも良い」という専門家もいます。
そして理想的な糞便は水に沈むはずです。
浮遊便は通常、栄養素の吸収不良または過剰ガスの兆候です。
5、健康的な糞便をするには、腸内細菌と植物性食物繊維が必須
糞便を健康的なものにするポイントは意外とシンプルです。
腸内細菌のエサになる難消化性植物性の食物繊維を多量に摂取することです。
食物繊維が糞便のカサを増やすと共に、糞便をまとめる役割をします。
食物繊維をたくさん摂取するには、加工食品はできるだけ避け、ホールフード、特に野菜や果物を自分で調理することが大切です。
また、小腸で消化されず大腸まで届くでんぷん、レジスタントスターチは、食物繊維と同じ働きをするため、積極的に摂取したいでんぷんです。
腸内細菌のエサになる食物繊維やレジスタントスターチを摂取することにより、腸内細菌に多様性が出てきます。
この方法では、プロバイオティクスのサプリメントに配合されていない善玉菌を得ることもできます。
6、糞便の中のとうもろこしが見えるのは、セルロースのせい
とうもろこしを食べた後、糞便にとうもろこしが入っているのを見たことがある人は多いと思います。
とうもろこしの穀粒の外側はセルロースという難消化性食物繊維でできています。
とうもろこしの内側は消化器官内で消化されますが、外側は消化されずに出てきます。
とうもろこしは黄色く、糞便内でも目立つためにわかりやすいのですが、実際同じような植物性食物繊維は他にも存在します。
例えば、ケールの茎など。
アフリカの内陸地、ブルキナファソでは、先進国に比べ今現在も多くの食物繊維を含む食生活がされているようで、私たちが消化できないセルロースも消化できるようです。
ブルキナファソの子どもたちのマイクロバイオームを遺伝子解析すると、プレボテラ属とキシラニバクテル属の細菌が75%という高い割合で見つかる。この両グループの細菌には、植物の細胞壁を形成しているキシランとセルロースを分解する酵素をつくる遺伝子がある。ブルキナファソの子どもはプレボテラ属とキシラニバクテル属の細菌を腸に棲まわせているおかげで、食事の大半を占める穀類や豆類、野菜から、より多くの栄養を引き出すことができる。
あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン著 より引用
7、世界の違う地域に住む人の大便は、形状も違う
食生活が異なれば、糞便の形状も異なるということは想像がつきます。
しかし、発展途上国のほとんどの人々の糞便は、西洋食を食べる人々の糞便とは著しく異なるようです。
発展途上国の人は西洋に比べ食物繊維を多く摂取する食生活を送っており、その大便はより密度が高くかさばる傾向にあります。
さらに排便はスルリと簡単に出てくる傾向にあり、お尻を拭く必要もありません。
先進国の人の大便は、踏ん張って押し出さないと出てこない場合も多くあります。
糞便の形状が違うということは、腸内環境にも差があるということのようです。
ジェフリー・ゴードンの率いる国際研究チームは、産業革命前の伝統的な暮らしをしている2地域の200名から糞便を採取した。1つ目の集団は、ベネズエラのアマソナス州にある2カ所の南米先住民の村落で、穀類とキャッサバが中心の、食物繊維が多く脂肪と蛋白質が少ない食生活をしている。2つ目の集団は、アフリカ南東部のマラウイにある4カ所の村落で、同じく穀類と野菜中心の食生活をしている。ゴードンの研究チームは各人の糞便から得られたマイクロバイオータをDNA解析し、アメリカ在住の300名の解析結果と比べた。
3カ国のマイクロバイオータを類似度で眺めると、アメリカと、アメリカでない2カ国とでくっきりと分かれた。南米先住民とマラウイ人の腸内細菌にはほとんど違いが見られなかった。ベネズエラとマラウイは1万キロ離れているにもかかわらず、腸内細菌は互いによく似ている。一方、アメリカ人の腸内細菌は南米先住民のそれともマラウイ人のそれとも似ておらず、多様性が低い。マイクロバイオータに含まれる菌種の数は、南米先住民が1600、マラウイ人が1400で、アメリカ人は1200だった。
プレボテラ属の23菌種が栄えているサンプルはどれも、非アメリカ人のものだった。
あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン著 より引用
8、新生児の大便は奇妙
新生児の最初の数回の排便は胎便と呼ばれます。
もしこれを今まで見たことがない場合、それはかなり奇妙に見えるかもしれません。
胎便は、濃い緑色のタールのような物質です。
羊膜、羊水、血液、皮膚細胞、粘液、胆汁など、新生児が子宮内で消費していたものが出てくるため、通常の大便とは大きく異なります。
胎便も通常、無臭です。
胎便は数日で出切り、黄色い便(母乳を消化した便)に変わります。
9、糞便移植の可能性
土壌、干し草、砂などの自然環境やヒト、動物(ウシ、ウマ、イヌ、ネコなど)の腸管および糞に棲息するクロストリジウム ディフィシル(クロストリディオイデス ディフィシル)は、抗生物質治療をしていた患者に病院で感染するケースが多い病原菌です。
抗生物質に耐性を持ちやすい特徴から、抗生物質での治療が難しくなります。
このケースで糞便移植は、抗生物質が効かなくなった患者の約80%で有効と言われています。
万が一再発しても、2度目の糞便移植の成功率は95%まで上がります。
抗生物質により有用菌まで一掃されてしまった腸内環境に、再び健康な細菌を棲み着かせることができる可能性が高い、有効な方法です。
糞便移植の方法は、簡単に言うと、健康なドナーの糞便と生理食塩水を料理用ミキサーで混ぜ合わせて患者の大腸内に注入する。そのときカメラのついた長いプラスチック製のチューブ(内視鏡検査のときの大腸ファイバースコープ)をお尻の穴から挿しこむ。これは下から入れる方法だ。注入液を上から入れる方法もある。鼻腔チューブで鼻から喉、胃に流し込むのである。
(中略)
四世紀の中国で、伝統医学の師だった葛洪は『肘後備急方』という救急処置の手引きに、食中毒やひどい下痢を起こした患者には健康な人の糞便を飲料にして与えれば奇跡的に回復すると書いている。同じ治療法は1200年後の中医学手引書にも出てくる。
(中略)
糞便は医薬品ではないため、キッチン用ミキサーと濾し器、生理食塩水を用意して、ユーチューブのビデオで手順を確認すれば自分で移植することもできる。実際、何千人もがそうしている。意外でもなんでもないが、このように自力で試そうとする人の中に、自閉症の子を持つ親たちがいる。
(中略)
プロバイオティクスと同じく糞便移植も、自閉症や1型糖尿病のような病態への治療には影響力が小さすぎ、またタイミング的にも遅すぎるように思われる。すでに損傷が生じてしまった場合や、器官の発達を左右する重要な時期を逃してしまった場合には、マイクロバイオータをどれだけ修復したとしても損傷の拡大を防ぐ程度の効果しかないだろう。一方、症状が少しずつ悪くなるタイプの病気なら、時計の針を戻すことは可能かもしれない。
あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン著 より引用
10、本屋に行くとトイレに行きたくなるのは「青木まりこ現象」
インクと紙の匂いが立ち込める静かな本屋に行くとトイレに行きたくなる(大をしたくなる)現象を「青木まりこ現象(Mariko Aoki phenomenon)」と呼びます。
青木まりこさんという、当時29歳の東京都杉並区在住の女性が『本の雑誌』へ「理由は不明だが、2、3年前から書店に行くたびに便意を催すようになった」と投書して、反響が大きかったことから、この現象は投書者の名にちなみ「青木まりこ現象」と命名されました。
医学的には解明されていない現象ですが、経験したことがある人は多いのが事実です。
11、糞便は自然に燃焼する可能性がある
2016年7月1日、記録的な猛暑の中、ニューヨーク州北部で大量の馬糞が自然発火しました。
人糞が発火した記録はありませんが、馬糞には熱、酸素、燃料という発火に必要な材料が揃っていたということになります。
腸内にはたくさんの数の腸内細菌が住んでいますが、おならはこれらの腸内細菌が生成するガスです。
このガスの中の硫化水素の割合が高い場合、大腸内視鏡検査の施術中に引火を引き起こす可能性があります。
結腸からのポリープ切除は焼灼器を使用しますが、結腸内にガスが充満している状態は、火花が散り短時間炎が発生することがあります。
12、糞便嘔吐と呼ばれる現象が存在する
小腸または大腸に閉塞がある状態、腸閉塞では、糞便が直腸に移動できず口から出てきてしまうことがあります。
機能的腸閉塞の他にも、麻痺性腸閉塞により糞便嘔吐してしまう場合もあります。
これは危険な状態で、すぐに処置することが必要です。
13、食糞する人が存在する
「食糞」という行動は、精神遅滞、アルコール依存症、うつ病、認知症、強迫性障害、統合失調症、統合失調感情障害などの精神障害と関連していると考えられます。
南インドの19歳男性は、自分の糞便だけでなく、山羊、牛、犬の糞、さらに生きている蜘蛛、蛾、カエル、ミミズ、カニを捕まえ、調理せずに食べてしまうことが確認され、父親によって精神科に連れてこられました。
統合失調症と診断され、精神科で入院、薬物治療後、睡眠、食欲、社会化の改善が認められ、無痛症などの症状は残ったようですが、食糞も無くなりました。
このように食糞を異常行動と見る考え方から、食糞は栄養状態と腸内環境の改善のためと見る考え方もあります。
トカゲからゾウまで「食糞」をする動物は多くいる。ウサギやげっ歯類の動物にとって自分の糞を食べるのは重要な意味がある。植物細胞の中に堅固に閉じこめられている栄養分を、まず腸内細菌に分解させて糞として出す。それをもう1度食べて栄養分を吸収するというわけだ。2度食べることで、得られるカロリー量も増える。食糞させずに育てたラットの成長率は、通常のラットの75%にとどまる。
(中略)
糞便を食べたりなすりつけたりすることに強い興味を示す兆候は、重度の自閉症児や統合失調症、強迫性障害の患者にも見られる。
(中略)
だが、生理学的な解釈はもっと微生物寄りだ。反復行動を生じさせているマイクロバイオータの不具合を元に戻すには、より健康な他の個体の糞を食べるのが近道だ。つまり、食糞は異常行動でも何でもなく、病んだ動物が自分のディスバイオシスを正すための適応行動だと考えられる。
あなたの体は9割が細菌 アランナ・コリン著 より引用
14、糞便は未来の動力源
イギリスのブリストルででは、現在地元の家庭から収集された下水や食品廃棄物から生成されるバイオメタンガスを利用しバスを運行しています。
乗客は「全然臭いはしない。」と言っています。
従来のディーゼルエンジンよりも温室効果ガスの排出量が少なく(窒素酸化物が80%、CO2が20-30%減)、有害な粒子がほとんどありません。
糞便を使ったバイオガスは、再生可能エネルギーの明るい未来につながります。
まとめ
糞便・うんこにまつわる驚くべき事実14選を紹介しました。
すでに知っていた事実はいくつありましたでしょうか?
先進国では、環境汚染、農薬、化学物質の蔓延などで、普通に暮らしているだけで腸内細菌叢の不均衡が起きるような時代になってしまいました。
それに伴い生活習慣病が蔓延。
これからは健康な人の糞便が高値で売り買いされる時代が来るかもしれません。
この記事が糞便に対する見方を変えるきっかけになってくれれば幸いです。