柔軟性があり、ノンスティックで、耐熱性もあり、「安全」と言われるシリコン製の調理器具。
プラスチックやテフロンの調理器具は、加熱などで健康に悪影響な化学物質が溶け出すことがわかっていますが、シリコン製の場合はどうなのでしょう?
結論から言うと、シリコン製調理器具によっては有毒化学物質が含まれている場合があり、それは加熱によって、または油や酸性の食品に触れることで揮発したり食品に溶け出す可能性があります。
この記事では、シリコン製調理器具からどのような場合にどのような化学物質が溶け出すのか、健康リスクを最小限にするシリコン製調理器具使用方法について説明しています。
シリコン製調理器具は何でできている?
シリコンは、ケイ素と酸素原子から作られた合成ポリマーで、その性能を高めるため、または安価に製造するために添加物が添加されていることがよくあります。
よく使用される添加物は次のとおりです。
- 充填剤 – シリコンの構造的完全性と耐摩耗性を向上させるために、シリカ、炭酸カルシウム、タルクなどが使われます。
- 可塑剤 – シリコンの柔軟性を上げるために、フタル酸エステルやアジペートなどの化学物質が使用されます。
- 着色料
- ノンスティックコーティング – ワックスなど。
その他、加工製造の際に使用する化学物質が残留していることがあります。
ある研究では、シリコン製スパチュラのシリコン1グラムあたり最大480μg(マイクログラム)の抗酸化剤BHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)と、最大5,830μgの可塑剤・DEHP(フタル酸エステル類)が含まれていました。
BHTは発がん性物質であり、DEHPは発がん性物質・内分泌かく乱物質です。
シリコン製調理器具に含まれるこれらの有害化学物質は、調理の際に食品に移行したり、揮発して空気中に放出されたりするのでしょうか?
シリコン製調理器具の危険性
シリコン製調理器具の研究では、安全性を示すものと危険性を指摘するものの両方が存在します。
どちらが正しいのかはわかりませんが、複数の研究に共通するリスクを紹介します。
特に安価なシリコン製調理器具は、以下のリスクが伴います。
化学物質の浸出
シリコン製調理器具から有毒な化学物質が浸出するケースが報告されています。
特に以下のケースで化学物質が浸出します。
- 高温に加熱された場合
- 酸性の食品や液体にさらされた場合
- 特定の洗浄製品(研磨剤など)にさらされた場合
シロキサンの浸出
シリコン製調理器具を高温調理に使用した場合、シロキサンが浸出し食品に移行します。
シロキサンとは、ケイ素と酸素を骨格とする化合物で、シリコン製品の原料です。
シロキサンには種類があり、調理器具のシリコンに使われるシロキサンは、以下の通りです。
- ヘキサメチルシクロトリシロキサン (D3)
- オクタメチルシクロテトラシロキサン (D4)
- デカメチルシクロペンタシロキサン (D5)
- ドデカメチルシクロヘキサシロキサン (D6)
- オクタメチルトリシロキサン (L3)
- デカメチルテトラシロキサン (L4)
- ドデカメチルペンタシロキサン (L5)
※これらはすべて分子量が低いシロキサンで、1〜4が環状シロキサン、5〜7が線状シロキサン
ヨーロッパでは食品に移行するシロキサンの限度を60mg/kgに定めています。
しかしながら、2005年から2017年にかけて実施された調査では、シリコン製調理器具から食品に60mgという限度をはるかに超えるシロキサンの移行が確認されました。
新品のシリコン製調理器具を使用し177℃の加熱で調理した際、シロキサンの移行は食品1kgあたり150mg〜300mgの範囲でした。
100時間使用したシリコン製調理器具でも、新品ほどではありませんでしたが、シロキサンの移行は確認されました。
シリコン製調理器具のパッケージに記載されている耐熱温度は「210℃」が一般的ですが、この耐熱温度以下で調理しても化学物質が浸出していることがわかります。
シロキサンは2010年に環境汚染物として初めて指摘され、低濃度のシロキサンに長期間さらされた場合の毒性効果については現在はほとんどわかっていません。
シロキサンにもD4、D5、D6などの揮発性シロキサンと、揮発性の低いシロキサンがありますが、シリコン製調理器具から食品に移行するシロキサンは、毒性のある揮発性シロキサンです。
D4とD5は環境中に残留し、分解されないことがわかっています。
つまり、体内に蓄積する可能性があるということです。
動物実験では、D4は生殖障害、肝臓の変化、良性の子宮腫瘍と関連付けられており、内分泌かく乱物質である可能性も示されています。
D5は子宮がんや生殖、神経、免疫への悪影響と関連しています。
D6は体内に蓄積はされないようですが、肝臓や甲状腺の肥大、生殖の問題と関連しています。
また、D4、D5、D6 は、2018年6月に欧州化学物質庁 (ECHA) によって高懸念物質 (SVHC) 候補リストに追加されています。
さらにシロキサンはシリコン製調理器具だけではなく、以下のものにも使われていることがあります。
- 布地コーティング
- 撥水剤
- 洗剤
- 化粧品
- ローション
- デオドラント
- ヘアケア製品
- ベビー用品
シロキサンへの曝露は、シリコン製調理器具からだけではなく、パーソナルケア製品やハウスダストからもさらされることになります。
BPAの浸出
シリコン製調理器具がトマトソースやオレンジジュースなどの酸性の食品に触れると、ビスフェノールA(BPA))を浸出する可能性があることがわかりました。
BPAは、内分泌かく乱物質として知られる化学物質で、プラスチックから浸出することが問題になっています。
フタル酸エステルの浸出
シリコン製の容器で長期間食品を保存した場合、特に油分を含む食品を保存した場合、フタル酸エステルなどの可塑剤が食品に移行する可能性があります。
フタル酸エステルは、生殖や発育の問題、ホルモンの不均衡に関連しています。
揮発性有機化合物 (VOC)の揮発
揮発性有機化合物 (VOC)とは、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質のことです。
揮発性シロキサンは、発性有機化合物 (VOC)であり、加熱調理により空気中にも放出されます。
これを吸引することによる肺への悪影響が懸念されます。
頭痛、めまいを引き起こす可能性も指摘されています。
シリコン製調理器具を安全に使用するポイント
シリコン製調理器具からは、使用の際に有害な化学物質が浸出し食品に移行したり、吸引すると有毒なガスが揮発することがわかりました。
ではシリコン製調理器具は全く使わない方がいいのでしょう?
これは使い方を工夫することで、有毒化学物質への曝露のリスクを避けることができます。
その工夫は以下の通りです。
- 高温調理には使わない
- 酸性の食品には使わない
- 油分を含む食品には使わない
- シリコンが食品に触れる時間をできるだけ短時間にする
- 研磨剤入りの洗剤で洗わない
- 安価なシリコン製調理器具は避ける
これをすべて守るとシリコン製調理器具の用途がかなり限られますが、製氷器などは安全に使用できそうです。
それからシリコン製のスパチュラ、ヘラ、パン生地作りの作業用マット、オーブンミトンなども、注意して使えば安全に使用できそうです。
乳幼児用のおしゃぶり、哺乳瓶の乳首などは、医療用グレードシリコンゴムを使用しているものをオススメします。
シリコン製調理器具に添加物が含まれているかをチェックする方法として、シリコンをつまんで折り曲げてみると白くなるものは、高確率で添加物を含みます。
私も持っているシリコン製ケーキ型を折り曲げてみたところ、折り目が白くなりました。
白いところは部屋の電気が反射しているわけではなく、本当に白くなっています。
シリコンを折り曲げる以外にも、高温調理をした際にプラスチックが溶けたような匂いがする、食品に変な味がついてしまった、という場合は、その調理器具には添加物が含まれている可能性が高いです。
添加物を含まないシリコン製調理器具が日本で販売されているのか、探してみましたが見つけられませんでした。
⬆︎
こちらはアメリカの会社100%シリコンの調理器具を販売しているサイトです。
海外発送は行っていないと書いてあるので参考にならないかもしれませんが、海外では100%シリコンの調理器具が販売されているようです。
まとめ
新しく出てきた便利なものに実は安全性の問題があることは多く、シリコン製調理器具もその一つと言えます。
シリコン製調理器具の安全性については賛否両論ありますが、安全とする研究でも「ただちに影響はない」など、長期的な安全性に懸念が残ります。
シロキサンなど、体内に蓄積する可能性がある有害物質が浸出している以上、私は長期的には安全ではないと考えます。
「浸出している化学物質は微量なため安全」という意見もありますが、日常生活でパーソナル製品、ハウスダストなどからの曝露もあることを考えると、安全とは言えません。
パンやお菓子を焼くなどのベーキングをする場合は、耐熱ガラスやテフロン加工がされていない金属製の調理器具の使用をオススメします。
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