野菜は体にいいイメージがありますが、どんな植物も栄養素と共に毒性を持ち合わせます。
この毒性は、動物や鳥、昆虫など、自分を食べる敵から身を守る特性で、シュウ酸(Oxalate)はその毒性物質の一つです。
シュウ酸は、ほうれん草など渋み、苦み、えぐ味、アクがある野菜に多く含まれ、体内でカルシウムや鉄などと結合し結晶化することから腎臓結石の原因になることで知られていますが、シュウ酸の毒性の影響はそれだけでは終わりません。
シュウ酸は血流に乗って体中の組織に行き、細胞を損傷する可能性があります。
この記事は、イギリスの栄養療法士、エリオット・オバートン医師のポッドキャストとサイトを参考に、シュウ酸の毒性、害、食品のシュウ酸含有量について説明しています。
シュウ酸とは?
シュウ酸は、植物に自然に含まれる物質です。
緑の葉物野菜に特に多く存在し、摂取すると体内でミネラルと結合、体のミネラル吸収を阻害する抗栄養素です。
植物がオーガニックであるか非オーガニックであるかには関係なく存在します。
動物は敵がいたら逃げられますが植物は動けないため、動物、鳥、昆虫などの敵から身を守るために防御機能としてシュウ酸などの反栄養素(抗栄養素)を持ち合わせます。
食品のシュウ酸含有量
食品のシュウ酸含有量は以下の通りです。
特に記載がないものは、生の食品です。シュウ酸含有量は同じ植物でも部位によって異なるので、上記の表は大体の目安にしてください。
(数値が間違っているかもしれないので、この表の無断転載はしないでください。)
コーヒーのシュウ酸含有量は高い?
コーヒーのシュウ酸含有量は色々な意見があり、「高い」「結石ができたのは毎日コーヒーを飲んでいたから」と考える人も多いようです。
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こちらの記事では、コーヒーのシュウ酸含有量のついて調べた様々な研究を検証し、出した結果が、
一般的なコーヒーで、 3mg / 1 杯
ということです。
飛び抜けて高い数値ではないということがわかります。
ただし、コーヒーやお茶など利尿作用がある飲み物で脱水状態になった場合、シュウ酸がミネラルと結晶を作ることを促進する形になります。
コーヒーを飲むなら、水分補給が重要になります。
シュウ酸の許容摂取量
シュウ酸については、結石の原因としては認識されていましたが、その他の問題について認識され始め日が浅いようです。
そのため許容摂取量が定められていないのですが、エリオット・オバートン医師が曰く、
150 mg/日 以下に抑えることが望ましい
ということです。
結石ができた経験がある方の場合は、50 mg/日 が目安になるそうです。
後から説明しますが、シュウ酸は人によって吸収率が異なります。
健康な腸ではシュウ酸塩の吸収率は0.75〜1.9%なので、シュウ酸含有量1000mgのグリーンスムージーを飲んだとしても、(吸収率1.5%で計算すると)シュウ酸摂取量は15mgです。
リーキーガットの腸の場合、シュウ酸塩の吸収率は50%くらいになるため、同じグリーンスムージーを飲んでも、シュウ酸摂取量は500mgと大きな差が出ます。
反栄養素の種類
植物の反栄養素は、シュウ酸以外にも数種類あります。
フィチン酸
シュウ酸と同じく、ミネラルと結合しミネラル欠乏を引き起こします。
強いデトックス作用、抗酸化作用もあるため、一言で「体にいい」「体に悪い」とは言えない物質です。
フィチン酸を多く含む大豆や玄米は、浸水、発芽、発酵させることでフィチン酸の効果を弱める働きがあります。
フィトエストロゲン(植物エストロゲン)
フィトエストロゲンは、動物の体内で女性ホルモンであるエストロゲンの様な働きをする物質です。
動物や鳥、昆虫などの生殖機能を阻害し、敵の数を抑えようとする目的があります。
人の場合、過剰摂取で問題が起きますが、環境ホルモンなど異種エストロゲンの内分泌撹乱作用の方が悪影響が大きく、フィトエストロゲンの摂取で異種エストロゲンの悪影響を抑える働きがあるという面もあります。
サポニン
大豆、オリーブ、ブドウの皮などに存在する界面活性作用のある物質です。
この界面活性作用が細胞膜を損傷したり、コレステロール吸収を阻害したりします。
一部のサポニンは、血糖値の急激な上昇を抑制する作用もあります。
レクチン
トマトやジャガイモ、豆類に多く含まれるたんぱく質で、消化しにくく、腸壁に穴を開けるリーキーガット症候群の原因になると言われています。
グルテンもレクチンの一種です。
加熱調理、浸水、発芽、発酵などでレクチンの効力を弱めることができます。
シュウ酸と他の抗栄養素との差は、他の抗栄養素は代謝、排出されることに対し、シュウ酸は蓄積する傾向があることです。
また、浸水、発芽、発酵、加熱調理などでも人に害なる効力は弱まらない傾向があります。
シュウ酸の健康への影響
シュウ酸は、ミネラルと結合しやすい性質があり、特に結合しやすいのは、
●カルシウム
●鉄
です。
その他にも、
●マグネシウム
●カリウム
●ナトリウム
など、プラスに帯電したミネラルと結合します。
ミネラルと結合したシュウ酸は、シュウ酸塩という結晶を作ります。
シュウ酸にも形態によって種類があります。
●ミネラルと結合していない遊離シュウ酸
●ミネラルと結合しているシュウ酸塩
ー可溶性シュウ酸塩(シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムなど)
ー不溶性シュウ酸塩(シュウ酸カルシウムなど)
ただし、可溶性シュウ酸塩から不溶性シュウ酸塩への変換は簡単に発生し、不溶性シュウ酸塩の方が腸で吸収されにくい形態になります。
このシュウ酸塩が健康にとって有益な作用と害になる作用、両方の働きをします。
害のほうから説明します。
シュウ酸塩の欠点
結晶化したシュウ酸塩は、ガラスの破片のような形をしています。
大きさは大小様々で、小さいものはナノサイズの極小です。
大きいものは激しい痛みを伴う腎臓結石、尿路結石などを引き起こします。
シュウ酸塩は、この結石だけの問題に収まらず、ナノサイズのシュウ酸塩が全身で炎症、酸化ストレスを引き起こすことも問題です。
この問題の例を挙げると、
●脳 → 自閉症
自閉症患者の脳には、シュウ酸塩の蓄積が見られるケースが多いということです。
●腸 → リーキーガット症候群、カンジダ症、IBS、IBD、SIBO
ガラスの破片のようなシュウ酸塩が、機械的に腸壁に損傷を与え消化の問題を引き起こします。
損傷した腸壁に炎症が起こり、真菌の増殖を促進します。
●腎臓 → 腎臓結石
シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムが腎臓に蓄積することで引き起こされます。
小さい結晶の蓄積では痛みはないかもしれませんが、細胞の損傷は起こっています。
結晶が大きくなると、耐え難い痛みが伴います。
腎臓結石には激しい痛みのほか、痛みの波、血尿、尿の濁り、尿の匂いの変化、頻尿、感染などを伴うことがあります。
デント病という、腎臓を損傷する遺伝性疾患も存在します。
●尿路 → 尿路結石、尿管結石
●心臓 → 心機能障害
●関節 → 関節炎
●甲状腺 → 甲状腺機能障害
●筋肉 → 筋力低下、筋肉痛
●神経 → 神経系障害
●皮膚 → 湿疹
目に見えないくらい小さいシュウ酸塩が皮膚を通って体内から出てくることもあれば、ツタウルシ、イラクサ、里芋、里芋科の観葉植物に触れることで結晶性発疹が引き起こされることがあります。
●動脈 → 動脈瘤、閉塞症、動脈硬化
●骨 → 高カルシウム血症
●細胞 → ミトコンドリア機能障害
極小のシュウ酸塩は、細胞膜を損傷し細胞に入り込み、ミトコンドリアの機能を阻害します。
シュウ酸塩の利点
鉄は身近にある金属なので、どれだけ鉄が酸化しやすいかということはご存知かと思います。
体内の鉄はヘモグロビンにも含まれ必須のミネラルですが、この鉄も酸化しやすい性質があります。
シュウ酸は鉄とも結合しやすく、酸化した鉄と化合物を作り体外に排出してくれる作用があります。
酸化した鉄以外にも、水銀や鉛などといった有害な重金属に対するキレート作用(結合作用)もあるため、重金属デトックスでは緑の葉物野菜をたくさん摂取します。
ただし、この利点はリーキーガットの症状がない健康な腸での場合に限ります。
シュウ酸の害が出やすい人
シュウ酸の利点と欠点では、圧倒的に欠点が大きくなります。
それでも「シュウ酸を全く摂取するな」というわけではありません。
シュウ酸は同じ量を摂取していても人によって影響の度合いが異なります。
シュウ酸の害が出やすい人は、以下の通りです。
腸内細菌叢の多様性が低い人
人は消化器官にシュウ酸を分解する酵素を持ち合わせていませんが、特定の腸内細菌はシュウ酸を分解することができます。
「オキサロバクター・フォーミネジェス」という腸内細菌のほか、乳酸菌、ビフィズス菌のシュウ酸を分解する能力が研究されています。
シュウ酸塩分解細菌は、
●ホルミル-CoAトランスフェラーゼ(Frc)
●オキサリル-CoAデカルボキシラーゼ(Oxc)
という異化酵素を生成することで、シュウ酸塩を分解すると考えられています。
抗生物質の使用によりこれらのシュウ酸塩分解細菌が減少すると、シュウ酸摂取で形成された結晶が炎症の原因になるリスクが上がります。
医薬品としての抗生物質だけでなく、食肉や乳製品に混入する抗生物質も気をつけたいところです。
また、主に遺伝子組み換え作物や小麦に使用される除草剤「グリホサート」の摂取は、シュウ酸塩分解細菌の減少に関連していると言われています。
抗生物質を使用する人、外食やコンビニ食が多い人は、腸内細菌叢の多様性が低い可能性があるため、注意が必要です。
リーキーガット症候群の人
網目状になっている腸壁は、カンジダ菌など真菌の異常増殖により網目が大きくなり、本来は通せない物質まで通してしまいます。
この状態をリーキーガットと言いますが、リーキーガットの状態だとシュウ酸塩の結晶も網目を通り抜け血流に乗り全身に送られます。
全身に送られるだけでなく、通り抜ける際に鋭い結晶の先端が腸壁に物理的な損傷を与え、悪循環になります。
健康で正常に機能している腸では、シュウ酸塩の結晶が通り抜けにくいため、吸収率は1〜2%と言われています。
リーキーガットの腸では、シュウ酸塩の吸収率は40〜50%まで上昇すると見られています。
2005年の研究では、腎臓結石がある人は、後でIBS(過敏性腸症候群)と診断される可能性が結石がない場合より2.48倍高いことがわかりました。
特定のダイエットをしている人
●プラントベースダイエット
●ビーガンダイエット
●ベジタリアンダイエット
●カンジダダイエット
●ケトジェニックダイエット
●パレオダイエット
●ローフードダイエット
●重金属デトックス
●ゲルソン療法
●糖質制限
など、特定の食事療法、ダイエットをされている方は、シュウ酸摂取量が高くなる傾向にあります。
生の葉物野菜や果物を使ったグリーンスムージーなど、一見健康に良さそうな食生活が実は高シュウ酸食だったりします。
葉物野菜は特にデトックスに有効ですが、そのデトックス効果で体調が良くなったからといって、それを長期で続けることはシュウ酸蓄積のリスクが出てきます。
シュウ酸含有量が高い野菜を高容量で摂取するのは短期間にして、長期ではシュウ酸の過剰摂取に気をつけながらこれらの野菜を摂取していく必要があります。
慢性疾患の救世主と呼ばれるセロリジュース。
毎朝空腹時に約450mlのセロリジュースを飲むと、
●炎症が緩和
●毒素のデトックス
●pHバランスを整える
●アンモニア産生の阻害などの作用で、症状が改善するそうです。https://t.co/i7UIavyHQd
— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) June 23, 2020
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こちらのセロリジュースも高シュウ酸ドリンクです。
デトックス目的で飲む以外は、常飲は避けた方が良さそうです。
また、ビーガンの人に人気のアーモンドミルク、グルテンフリーの人に人気のアーモンドフラワーもシュウ酸含有量が高い食品です。
一度結石ができている人
腎臓は、血液が運んできた毒素、余剰なミネラルなどをフィルターする臓器です。
そのためシュウ酸が腎臓にたどり着くと、ミネラル、特にカルシウムと結合し結石を作ります。
腎臓結石は再発しやすく、特に低年齢で結石ができた人は人生のうちに何度か繰り返すこともあります。
これがなぜかは解明されていませんが、結石が体外に排出されたからといって腸内環境の改善がないままでは、シュウ酸塩が蓄積されやすい原因は取り除かれていないためと考えられます。
また結石は、女性より男性にできやすい傾向があります。
これは男性が女性に比べて筋肉量が多いため、尿路の形態の違いのためと言われています。
過剰なビタミンCを摂取する人
過剰なビタミンC摂取は、肝臓が生成する副産物としてのシュウ酸量を上げる可能性があります。
これもビタミンC摂取量の上限の具体的な数値は定められていませんが、食事から摂取するビタミンCは問題にはなりません。
ビタミンC点滴など、2000〜3000mg 以上の高容量の摂取に注意が必要です。
体内に蓄積したシュウ酸の対策
体内に蓄積したシュウ酸が排出されることを「オキサレートダンピング(Oxalate Dumping)」と言います。
オキサレートは「シュウ酸」で、ダンピングは「投げ捨てる」というような意味があります。
デトックスと似ていますが、デトックスが肝臓で毒素を無毒化する、体外に排出することに対し、オキサレートダンピングは肝臓は使わず、体内で結晶化して蓄積しているシュウ酸塩を体外に排出するというプロセスになります。
体内に蓄積したシュウ酸排出のやり方、オキサレートダンピングについては、シュウ酸摂取を制限することがメインになりますが、注意事項がたくさんあるため別の記事に詳しく書いています。↓
まとめ
プラントベースダイエットやビーガンダイエットが流行る昨今、野菜をたくさん食べることは健康的と思われがちですが、野菜に自然に含まれるシュウ酸に注意が必要ということを説明しました。
繰り返しますが、シュウ酸を多く含む葉物野菜は栄養価が高く、誰もが避けるべき食品というわけではありません。
高容量での摂取も、デトックスとしては有効です。
ただ、毎日グリーンスムジーを1L以上飲むとなると、過剰なシュウ酸を絶えず摂取することになり、蓄積が心配になります。
当サイトでも、葉物野菜をたくさん食べるカンジダダイエットや重金属デトックスについて紹介していますが、シュウ酸の危険性について認識が薄かったため、重要な注意事項として追記しようと思います。
・プラントベースダイエットをしている人
・ビーガンの人
・緑の葉物野菜をよく食べる人
・デトックスの食事療法をしている人
・慢性炎症の問題がある人
・リーキーガット症候群の人