バランスのとれた腸内環境は健康維持にとって非常に重要です。
腸内にはたくさんの常在菌が住み着き、病原性のある細菌やウイルスが入ってきても簡単に感染しないように守ってくれています。
胃や腸などの消化管の内側の粘膜には粘液のバリアがあり、この粘液バリアは効率的なシステムで細菌やウイルスに感染して炎症を起こすことを防ぐほか、様々な役割を果たしています。
粘液内の様々な役割には、主成分であるムチンが関係しています。
この記事では、体の幾つかの組織にある粘膜の中でも、腸粘膜の粘液バリアと、粘液の主成分であるムチンの役割について説明しています。
後半では、粘液バリアの修復の方法について説明しています。
粘液バリアの構造と役割
人の体には、目、鼻、口、消化器などに粘液が存在し体が病気にならないように守ってくれていますが、ここでは腸の粘液について説明します。
構造
体の表面を覆う「表皮」に対して、体の内側にあるけど外部と接している管腔臓器の粘膜を「上皮」と言います。
腸の上皮細胞は粘膜で覆われ、粘膜は粘液層で覆われています。
そのうちの粘液層は多層粘液構造と言い、外側と内側で粘液の成分が異なります。
粘液層の外側は簡単に取り除かれますが、内側はしっかりと粘膜にくっついています。
粘液は食べ物が通るたびに剥がされ、特に大腸の粘液は糞便と一緒に排出されたりと、カサが減ることもあります。
ムチン
粘液の主成分は水分ですが、ムチンは上皮細胞などから分泌される粘液の水分に次ぐ主成分のスライム状物質です。
糖質とタンパク質からできた糖タンパク質であり、アミノ酸がつながったポリペプチド鎖に糖鎖が枝状に結合した構造を持ちます。
オクラ、納豆、里芋など、植物のネバネバの成分がムチンという認識は日本だけで、海外では動物の唾液、魚の表面など動物性のネバネバのみをムチンと呼ぶようです。
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植物性のネバネバ食品が消化器官内のムチン産生を助けるという考え方は「必ずしもそうではない」ようですが、こちらの動物実験では、キウイフルーツを食べることでムチン産生が促進された結果が出たとのことです。
ムチンはその粘性から、潤滑剤としても機能します。
ヒトムチン遺伝子は少なくとも以下の20個が存在します。
MUC1、MUC2、MUC3A、MUC3B、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC6、MUC7、MUC8、MUC12、MUC13、MUC15、MUC16、MUC17、MUC19、MUC20
主要な分泌型気道ムチンはMUC5ACとMUC5Bですが、MUC2は主に腸内だけでなく気道内にも分泌されます。
MUC1の過剰発現は多くの種類のがんに関連しています。
また、ムチンの炭水化物構造は、細胞系統、組織の位置、発生段階によって異なります。
ムチンのグリコシル化 (糖鎖付加)が、粘膜感染や炎症に応じて変化する可能性があります。
ムチンのゲル層はメッシュ構造になっており、病原体の侵入を防いでいます。
役割
粘液バリアの役割は以下の通りです。
1、粘膜を物理的、化学的に保護する
2、免疫機能
3、pHの調整
4、腸内細菌叢の調整
5、栄養素吸収の促進
1、粘膜を化学的、物理的に保護する
粘液バリアは、病原体や毒素、食物抗原を腸壁で吸収してしまわないようにブロックし、さらに吸い込んでしまった煙、胃からくる強酸の胃酸など刺激のあるものからも腸壁を守ります。
硬いもの、尖ったものなどが腸壁を傷つけないように、粘液バリアが物理的に保護してくれている側面もあります。
2、免疫機能
粘膜には,粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる独自の免疫システムが構築されています。
粘膜には多くののT細胞、B細胞、IgA (免疫グロブリンA)産生形質細胞、抗原提示細胞(樹状細胞など)が存在し、粘膜免疫の中心的な役割を担っています。
リンパ球の一種。細胞表面に特徴的なT細胞受容体を持つ。機能によってキラーT細胞、サプレッサーT細胞、ヘルパーT細胞などと区別される。B細胞
リンパ球の一種。病原体を失活させたり、病原体を直接攻撃する目印になったりする。IgA
分泌型IgAは、粘膜免疫防御系の構成の一部。
侵入してきた病原体にくっついて、これを無力化するように働く免疫物質。抗原提示細胞
血球のひとつで、体内に侵入してきた細菌や、ウイルス感染細胞などの断片を抗原として自己の細胞表面上に提示し、T細胞を活性化する細胞。
また、粘液層に住む有用菌が病原体を不活性化したり、粘膜上皮細胞にシグナルを出しムチン産生を促したりもします。
3、pHの調整
酸性の胃酸が分泌される胃、胃から物が運ばれてくる腸は酸性です。
粘液の中には健康に有益な菌も住んでいて、これらの菌は酸性すぎる、またはアルカリ性すぎる環境も好みません。
そのため粘液バリアの外側の層は、外部の環境から内部の粘液を中性に近いpHに保ちます。
粘液バリアが有用菌の好むpHではない場合、プロバイオティクスのサプリメントを摂取しても有用菌が定着してくれない、ということが起こります。
4、腸内細菌叢の調整
腸内の有用菌は粘液のくっつく粘性を利用してそこに留まります。
さらに有用菌は粘液を食べて短鎖脂肪酸を生成し、病原菌が住みにくい環境を作ります。
病原菌も毒素を放出しムチンの産生を抑制したり、粘液バリアの関門を通過しようとしたりするため、粘液バリアはムチンのグリコシル化(糖鎖付加)などで素早く粘液の構成を変化させて対応します。
アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)は、腸の粘液層で繁殖する細菌です。
「ムシニフィラ」とは、「ムチンを好む」という意味があるようです。
過敏性腸症候群(IBS)、炎症性腸症候群(IBD)や肥満など、特定の症状がある患者にはこのA. ムシニフィラの生育数が少ない傾向にあり、A. ムシニフィラは健康維持に有用な菌であると言えます。
乳酸菌やビフィズス菌など、他の有用菌が食物繊維やレジスタントスターチを好む傾向があるのに対し、A. ムシニフィラはムチンを好みます。
A. ムシニフィラがムチンを食べ短鎖脂肪酸である酪酸を生成することにより、腸内が乳酸菌やビフィズス菌にも住みやすい環境になります。
A. ムシニフィラが少ない環境では、乳酸菌やビフィズス菌も少なくなり、腸内での炎症のリスクが上がります。
5、栄養素吸収の促進
細菌やウイルス、抗原が粘液バリアの関門を通過した場合、腸壁では炎症が生じます。
炎症が起きている腸壁は、ビタミンやミネラルなどの栄養素の吸収が困難になります。
粘液バリアが病原体からの感染をブロックすることで、炎症も抑えられて栄養素吸収が促進されます。
また、粘液層に有益な腸内細菌が増えることにより、ビタミンB群、ビタミンKなどを産生してくれます。
粘液バリアの修復
腸内環境に害になる要素が多い現代。
腸内環境の改善には、粘液バリアを修復し、炎症を抑えていくことが重要です。
修復のステージは以下の通りです。
1、ダメージを防ぐ
2、コーティングと修復
3、毒素と刺激物を取り除く
4、カンジダ除菌
5、粘液バリアのサポート
6、腸内細菌叢の再建
7、腸内バランスの維持
1、ダメージを防ぐ
粘液バリアにダメージを与える食品とその他の因子は、以下の通りです。
●砂糖
●添加物(特に乳化剤)
●アルコール
●カフェイン
●タバコ
●薬(イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)
●レクチン(糖鎖に結合する性質があるたんぱく質)
●カビ
●グリホサート(除草剤)
●グルテン
●乳糖
乳化剤
乳化剤は、食品に添加される界面活性剤です。
水と油の分離防ぐ乳化剤が、粘液の組成と有益な腸内細菌の組成を狂わせ、メタボリックシンドローム、肥満、大腸炎などの原因になっているとする研究が幾つかあります。
「乳化剤」は食品に添加される界面活性剤です。
水と油の分離防ぎ、食品の口当たりをよくしたり賞味期限を延ばせる利点があります。
様々な食品に使われているこの乳化剤。
腸内環境にはどう影響するのでしょうか?https://t.co/gkwOnSqmVo— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) April 27, 2020
乳化剤が使われている食品
パン
チョコレート
ソース類
ドレッシング
アイスクリーム
ハム・ソーセージ
コーヒー飲料
コーヒーのクリーム
豆腐
麺類
錠剤
など。子どもに人気のアンパンのキャラが書いてあるチョコレートにも入っています。
腸内環境形成中の子どもには是非あげたくない添加物です。— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) April 27, 2020
インフルエンザワクチンの添加物
●チメロサール(水銀)
●グルタミン酸ナトリウム(MSG)
●スクロース(砂糖)
●ソルビトール(人工甘味料)
●抗生物質
●ポリソルベート(乳化剤)
●ホルムアルデヒド
●アルミニウム
●卵の蛋白質https://t.co/OTdYVflftR— ユー子@カンジダ情報発信中 (@yuko_candida) January 26, 2020
2、コーティングと修復
粘液バリアをコーティングと修復する食品とサプリメントは以下の通りです。
●アロエ
●リコリス
●マシュマロウルート
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お茶にして飲みます。
●スリッパリーエルム
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お茶に入れて飲みます。
●オクラ
●モウズイカ(Mullein Leaf)
●ヒレハリソウ(Comfrey)
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数滴を経口摂取します。歯や歯肉を強くする作用もあります。
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●クルクミン(ウコンの抗炎症抽出物)
3、毒素と刺激物を取り除く
●免疫グロブリン
免疫グロブリンは、有毒な抗原に結合し毒素を中和する抗体です。
リーキーガット症候群の初期症状では、分泌型免疫グロブリンが欠乏していると言われています。
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こちらのコロストラム(免疫ミルク錠)は、免疫グロブリン(IgG)を20%配合。
●活性炭(アクティベートチャコール)
活性炭は、消化管内の毒素を吸着し、便と共に体外に排出してくれます。
4、カンジダ除菌
リーキーガットの原因になっている主要な真菌がカンジダ菌です。
腸内で増殖するカンジダ菌の除菌することで、炎症を抑え腸内環境を改善することができます。
カンジダダイエットは、カンジダ菌が大好きな砂糖を控えカンジダ菌の増殖を抑える食事療法です。
詳しいやり方は、こちらの記事を参考にしてください。↓
5、粘液バリアのサポート
粘液バリアのサポートをする食品、サプリメントは以下の通りです。
●L グルタミン
●亜鉛カルノシン
●植物ポリフェノール(バイオフラボノイドを含む)
ブルーベリー、カシス、ぶどう、ウコンなど。
6、腸内細菌叢の再建
腸内の有用菌を増やすために、以下の食品、またはサプリメントを摂取します。
●プロバイオティクス
発酵食品、またはサプリメントで腸内に有用菌を送ります。
●プレバイオティクス
食物繊維、特にイヌリンは腸内細菌のエサになります。
●レジスタントスターチ
難消化性でんぷん、大腸まで消化されずに届くでんぷんがレジスタントスターチです。
食物繊維と同じ働きをします。
7、腸内バランスの維持
粘液バリアを修復し、腸内細菌叢を再建できたら、この状態を保つ必要があります。
1、の粘液バリアにダメージを与える食品を継続して避けることはもちろん、ストレスを避けることが重要になります。
まとめ
腸粘膜の構造と、粘液バリアの重要性、ムチンの役割、粘液バリアの修復の方法について説明しました。
粘液バリアの修復では、粘液にいいものをたくさん紹介しましたが、全部やる必要はありません。
できそうなこと、興味があるものから始めて頂ければ十分です。
この記事を書くにあたって、英語と日本語のサイトをいくつか読みましたが、日本語のサイトでは「ネバネバの食品(植物性)にムチンが含まれる」という記述が多く、英語のサイトにはそのような記述はありませんでした。
そもそもネバネバの食品を好むのは世界で日本人くらいなのでしょうか?
ネバネバ食品についての英語での記述は、オクラくらいです。
なめこ、メカブ、山芋、とろろ芋など、私は大好きなのですが、欧米では食べ物がネバネバしていたら「腐っている」と思われるようです。
「ネバネバの食品(植物性)にムチンが含まれる」ということはないようですが、血液サラサラ効果、便秘改善効果などはあるようなので、どちらにしても健康には有益ということです。
サジーというベリー系のフルーツは、「オメガ7脂肪酸」という珍しい脂肪酸が豊富です。
このオメガ7脂肪酸には、粘膜を保護し潤滑剤になる作用があります。
サジーはフラボノイド含有量も高く、腸内環境改善、腸粘膜の健康促進にオススメです。↓
・カンジダ症の人
・リーキーガット症候群の人
・腸内環境を改善したい人
・消化の問題を抱えている人